ベチバーとアイラ 時の香り
パチュリとベチバー
燻し香・土の香り・グランディング効果の香りとして一緒に出てくることが多い。
でもこの二つの香りは似ているけれど、方向性が逆のような気がする。
双子なのに性格や好みが真逆な兄弟のような。
人を落ち着かせ、地に足をつけさせるグラウディング効果でも、
パチュリは「今・ここ」に人を接地させる。
ベチバーは「昔と今・あそことここ」に人を接地させる。
最初ベチバーを嗅いだ時、グレンンファークラスのシングルカスクを思い出した。具体的に香りが似ているというよりも、香りで連想する風景がよく似ていたから。
峨々たる…ではなくて、少し丸みを帯びながらも屹立し幾重にも重なる山並み。
中程は深い霧で覆われていて、風が吹くごとに風景が変わる。
奥から手前にかけて鮮烈な水が走っている。
右側の山は水に向けて急な崖。崖の上には風にさらされるのかねじくれた木々が緑を下げている。
左側にはわずかな平地と洞窟が開けている。
グレンンファークラスの香りを嗅ぎ、ひとくち口に含んだ時、洞窟の手前には熾火の焚き火。急な長旅だったのか旅ごしらえも儘ならぬ女性が一人、くたびれた素足を水につけている。そんな風景が浮かんできた。
ベチバーでも風景は同じなのだが、焚き火はもう消えていて人の姿はない。
でも焚き火の風情と人の気配は濃厚に残っている。
ベチバーの香りには過ぎ去って今はないものを呼び覚ます何かがある。
それは郷愁ではなくて、欠如そのもの、今もうないことである。
その欠如そのものをゆっくりと口に含み、その香りに包まれている「今」がある。
しかしその「今」はすぐに「有ったがもうない」過去に変わる。
その揺らめきをベチバーは知らせてくれる。
私にとってベチバーはそんな香り。
燻し香もあるのかアイラウィスキーによく似合う。
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